読書メモ 『汚穢と禁忌』

 メアリ・ダグラス著、塚本利明訳、『汚穢と禁忌』、筑摩書房、2009.を第四章まで読む。
 旧約聖書学との対話のなかで文化人類学的にレビ記を読む第三章『レビ記における「汚らわしいもの」』は読み応えのあるものだった。
 ロバートソン・スミス以降、イスラエルは周辺のカナン人とは異なる精神的・倫理的宗教を持つと見なされ、イスラエル以外の宗教は呪術として一蹴されたという。そして宗教とは内面的・倫理的なものであり、呪術は未開人の愚かしい原始的表現であるという偏見に拍車がかかったと。
 しかしイスラエル人もまぎれもなく呪術的世界に生きたのであり、そこで言われる呪術とは世界を彼らにとって完全(聖潔)なものと不完全なものとに分類(隔離)することであった。それはイスラエルに限らず世界的に見られることでもあり、現代の我々も儀式(呪術)のなかに生きていると著者は語る。儀式は人間が世界を体験し認識するために不可欠な要素だと。
 呪術と言うと「効果」ばかりが誇張され、そのために呪術/儀式=うさんくさい、と福音主義的価値観に生きる現代人は思い込む。その誤解を丁寧に取り去り、倫理のみに生きているという思い込みから解放させてくれる、快い書物である。