文通

 “でも、幸福というのは、僕ら二人にとっては何か別の、もっと人目につかない場所にあるように僕は思うのです。その場所は多くの人には理解されないし、これからもずっと理解されないままだろうと思います。本当のところ、僕らは二人とも課題を探し求めているのです。”(ボンヘッファー→マリーア)
 連れ合いが3ヶ月入院しているあいだ、何通も文通した。携帯電話が使用できなかったからだ。彼女は「毎日手紙か面会を待ちわびた」という。わたしも連日、彼女からの封筒を急ぎ開き、返信の便箋に文字を刻み込んでいた。そういう動作というか、振る舞いでしか思いつかない思考というものがある。
 キーボードは考えるスピードにまあまあ近いスムーズさがある。しかし手紙は焦っても焦っても、ペンの動きには限度がある。ボンヘッファーの字はベートゲやマリーアら親しい人にしか判読できないほど汚かったようだが、彼は溢れ出る思いを腕の筋肉が痙攣するように紙面に走らせたことだろう。