いす

 このあいだ、アルバイトでくたくたの帰りバス、運よく座ることができた。すると不思議なもので、こんなときに限って、わたしのところへ吸い寄せられるように、わたしの前によろよろと、それも重そうな荷物を手に持ったおばあさん。
 おれは疲れているんだ。若くったって身体の調子が悪けりゃ(悪くないけど、疲れて果てているのも悪いうちだ、きっと)、お年寄りのように座り続けたっていいはずだ・・・・というわけで、顔を伏せて、気付かなかったことにする。相手は髪を黒く染めている。そうだ、髪が黒いから若いと勘違いして譲らなかった。そうしよう・・・・
 しかし髪が黒くっても、見るからに年月を重ねた染み、皺のある腕。よろよろ震える足腰。言い訳はできなかった。葛藤すること長時間、否、実際には発車後1〜2分。さも今気付いたかのように「どうぞ、お座り下さい、どうぞ」。身体は疲れていたが、何かから解放された気持ち。
 こんなときに限ってなんで?というようなしんどいことがやってくることが、人生にもある。けれどもこういう小さな「譲ること」、しんどいなあと思うけど明け渡すこと、それで誰かの笑顔を見て、ちょっと解放されること。生きる義務なんて、難しいことじゃなくてこんな小さな積み重ねなんだろうな。