に過ぎない

月蝕というものを初めて見た。なるほど、三日月みたいな、月が欠けているというのとは全然違う。月が欠けているとき、欠けた部分は文字通り欠けていて見えず、切った爪みたいに見える。けれども月蝕は、欠けた部分もぼんやり茶色く、とでもいうか、黒い薄布越しとでもいうか、とにかく見えている。
月蝕を見上げながら、月が平面な空の絵画や夜空に刳りぬかれた穴から漏れる蛍光灯の光なのではなくて、立体的な球であることを、初めて認識できたように思う。
実に陳腐な表現だけれども、澄んだ夜空を久しぶりに見上げると、自分が何の宗教を信じてどんなことで悩んでいるかなど、ほんとうにちっっっっさーい、静寂のなかの微小な波なんだなあと実感。ただ、微小な波「に過ぎない」のかどうかは、まだ分からないけれど。