読書メモ 『売春の社会史』

 暇なわりには読書の速度が遅い。やっとバーン&ボニー・ブーロー著、香川檀・家本清美・岩倉桂子訳、『売春の社会史 古代オリエントから現代まで 上』、筑摩書房、1996.を読了。まだほぼ同じ分量で下巻もある・・・・
 社会学的に広い範囲で「売春」というカテゴリーに入れているため、本書では扱っていないが、ある意味聖書のエステル記に登場するエステルなどもその範囲に入る。後宮の女性すなわち高級娼婦として。
 エステルがそうであったように、高い教養と知的な会話で男性を愉しませるというようなことは、家庭に閉じ込められた女性には到底不可能なことであった。女性が文学や音楽などの教養を男性並み、あるいはそれ以上のレベルで得るには、高級娼婦となるしかなかった。しかしそれは高級娼婦だけであり、街娼や売春宿の女性たちの生活は病気や死と隣り合わせ、どんな男性の暴力にも耐えねばならない悲惨なものであったようだ。そういった事情はだいたいアジア、ヨーロッパともに同様らしい。
 売春は男性の側による二重規範(男性の不貞は許されるが、女性の不貞は許されない/売春は悪だが、欲望発散のための必要悪である)によって成り立っていたため、歴史上取締りが出来たためしがないようだ。1414−18年のコンスタンツ公会議では、コンスタンツの町に700人の売春婦が集まってにぎわいを見せたという(310頁)。ルターやカルヴァンなどは売春に「神学的には」厳しい態度を見せたが、現実には曖昧な対応しかできなかったようだ。とくにその後継者たちは。