絡みつき締め付けてくる

 NHK東海村臨界事故」取材班、『朽ちていった命─被曝治療83日間の記録』、新潮社、2011を3分の一ほど読んだところで、気分が悪くなって中断。たとえば仮にNHKのテレビを見ていても、こんな気持ちの悪さに襲われることはない。テレビはわたしの理解速度より速い媒体だから。しかしテクストというのは、わたしの理解速度にあわせ、わたしのからだに貼り付き、わたしを傍観者であることを許さない。本書のテクストが、どこまでが取材による事実で、どこからが語り手による物語的編集なのかは判別し難い。しかし、テクストが指し示すものと読者との距離とが脅迫的にゼロに近づく感覚は否めない。嘔吐感。
 NHK東海村臨界事故」取材班『朽ちていった命─被曝治療83日間の記録─』読了。連日の原発に関する報道に感じていた曖昧さ、はっきりいえば「言葉の遠さ」を、一気に吹き飛ばされる。もちろん8シーベルトという被曝量は、今回の震災でも起こってはいない極端な事例ではある。だが、入院当初ふつうに会話していた、なんら外傷も見当たらないような被曝者が、日数が経つにつれて皮膚が壊死し、内臓の粘膜も壊死し、そもそも染色体が原型を止めないまでに破壊し尽され、身体の表面に黴まで生えてくる様子。当事者たちの微妙な会話。「がんばろう」「がんばれ」でなんとかごまかしていたのが、もはや医療者たちも言語を奪われるような圧倒的な死が訪れる。遺族の心情については詳細には描かれていないが、医療者たちの受けた深い心の傷から、放射線による人間の蝕みというものの恐ろしさを教えられる。