ユリイカ 矢川澄子・不滅の少女』が小林秀雄『モオツァルト・無常という事』とともに届いたので、矢川澄子から読み始める。表紙の矢川の白黒写真が、あちこちこすれて白くなっている。印刷所から旅に出て、倉庫や書店、また倉庫と、10年間あちらこちらを経巡って、ようやくわたしの手許へ届いた。
“おしゃれというのは本当はこわいものなのです。どうやらそう思われます。おしゃれに徹すれば、少くとも他人の視線など気にしてはいられなくなるはずです。なりふりかまわぬおしゃれ、というのもおかしな言いかたですが、現にそうした生きかたをしてしまっているひとが、わたしの周囲にも幾人かはいます。好むと好まざるとにかかわらず、おのずとそうなってしまうのです。それこそ髪ふりみだしておしゃれに憂身をやつしているようなその人々の、みずからそれと意識しないところに滲みだす美しさ。その天晴れないじらしさこそ、いまのわたしの眼には時として最高のおしゃれと映って見えたりもするのです。”矢川澄子「わたしのおしゃれ哲学」