帽子

22年間愛用しているソフト帽があるが、いよいよクラウンの部分に亀裂が入ってきた。買ったばかりの頃、まだ扱いに慣れていなくて、映画の登場人物よろしくクラウンをつまんで脱ぎ被りしていたからだ。後にそれは絶対よくないと知って止めたのだが、ここ数年、今頃になってダメージがやってきた。
フジコーという日本のフェルトメーカーが出している、FUJIHATというソフト。色はライトグレーだったが、経年変化で赤みがかっている。インターネットで調べたり、お店に問い合わせたりしてみたが、フジコーはここ数年はライトグレーは作っていないとのことであった。
今日、二軒の帽子屋に立ち寄る。巣鴨のタムラ帽子店と、森下にある帽子屋のマルケイ。わたしの帽子は何度かのクリーニングのあいだにサイズのタグも外れていたので、大きさも分からないのにインターネットで買うのは危険であった。結局、店頭に残っているライトグレーは自分に見合うサイズがなかったものの、より暗いグレーを購入。なにより、マルケイの店主の心意気に惚れた。70代くらいの女性だろうか。この道60年、帽子のことならなんでも訊いてくれと言わんばかりだった。買う際に帽子の手入れの仕方など、多くのことを教わる。わたしの帽子のことも、「いいものは長持ちするよ」と、たいへん喜んで下さった。
帽子の型は新たに制作するのにクラウンで800万円もかかるのだとも言っておられた。プリム(つば)の部分も数百万円すると。だから古典的な帽子を新たに製造するのは採算的に難しいのだと。メーカーはおそらく昔からの型を今でも使い続けているのだろう。いずれにしても、ひとつの道に長年打ち込んでおられる店主の姿はとてもすがすがしかった。