追記

この『素晴らしき哉、人生!』という映画、勧善懲悪でないところがいい。悪人ポッターが自業自得で自滅するかどうかとか、そんなのは物語の主眼の外にある。悪人がどんな悲惨な結末を迎えるのかではなく、人生の意味を問うほどに追い詰められた主人公が、問えるような意味などはるかに超えたものに出遭うということ、そちらが作中の勘所なのだ。
『Ministry』誌上で服部弘一郎氏が、この映画をヨブ記に結び付けて解説していた。上記の意味でも、まさにそのとおりだと思う。もしもポッターが「裁かれて」いたら、ただの勧善懲悪ものである。ああすっきりした、でおしまい。しかし映画のテクストは開かれており、逆に「じゃあ(裁かれずのうのうと栄える)ポッターは何を得るのか?ジョージは何を得たのか?」と、ポジティヴに考えさせてくれるのだ。
さらに聖書に結び付けるなら、ヨブ記のみならず、ヨナ書にも通じる、テクストの開けがある。ヨナ書も、神から問いかけられたヨナが最後どう答えたのかは書かれておらず、物語が終わる聖書のページはやけに余白が目立つ。その余白に、読者はその後のヨナの応答を想像するのだが、ジョージと彼の仲間たち、ポッターとその取り巻き、それぞれにどんな生き方をしてゆくのか。ポッターが裁かれずほったらかしにされることで、かえってリアルに、観る者は余韻に浸ることができるのだ。
次号の『Ministry』付録映画は『七つの大罪』だという。これも観たことのない映画。楽しみだ!