息遣いのする青

松本竣介展を観に行った。画家も戦争画を描かざるを得なかった時代に、描かず、ひたすら地味に地道に、風景と人とを描き続けた人。戦争画から自立した芸術それ自体を、あんな時代に堂々と雑誌で主張した人。戦後の混乱期に、36歳で病死した人。今、こういう時期に、彼の絵を見ておいてよかった。
彼の絵の、ことさらに青が、まるで宝石のような輝きだった。展覧会に行くといつも思うことだが、絵の前にががんで、絵を見上げ、照明に照らされる筆跡の凹凸を味わうにつけ、それが何年前の作品であろうと、作者が背後からぽん、と肩を叩いてくれそうな気がする。「どう?いいでしょ、これ」。
画家の身体が消滅しているということが信じられない。というのも、そこにある絵が、まさに画家の身体、ことさらに手、指(の気配)そのものだから。
松本竣介は息子の莞が描いた落書きをもとにした作品も遺している。「せみ」というのがあったが、息子が描いたせみを、重厚な背景色の塗り重ねの上に、まるでコピーのごとく忠実に模写している。解説によればもちろんコピーなどではなく、トレースでさえなく、フリーハンドであるという。超絶技巧!!
彼は雑誌の刊行などにも携わっていたためか、デザインセンスが抜群だ。あの時代の憂鬱さを、ただ陰惨に描いているのではない。それをポスターにしたり、何らかの素材に応用することさえ可能であるような、すばらしいデザイン性をも持ち合わせている。パウル・クレーやルオーの影響があるらしいのだが。