アイデンティティを死守した人々

呉寿恵『在日朝鮮基督教会の女性伝道師たち 77人のバイブル・ウーマン』(新教出版社)読了。「第4章 受難期(1940〜1945)」は改名や日本語の強制、日本基督教会そして日本基督教団への吸収などの、苦難の歴史が語られる。巻末には3・1独立宣言に影響を与えたという2・8独立宣言も附録として掲載されている。
後書きに“女性たちが教会ではいつも厨房に入って陰の働きをしているのに”とあるのを読んで、本書を読み始めたとき最初に思い出した、厨房で料理を豪勢に用意してくれ、しかし同席することは決してなかった在日の女性の方々のことを再び考えていた。
日本の政府が戦前に朝鮮人キリスト者を厳しく弾圧したのは、戦国時代に秀吉以降の幕府がキリシタンを弾圧したのと、文脈は異なるが比較し得るものはあると思った。つまり信教の自由を民衆に与えることは彼らに「個」を目覚めさせ、服従させるのが困難になるという、支配者側の不安について。
一人の女性伝道者が、学校や教団などに提出する書類のなかで、何度も日本名にしたり本名に戻したりを繰り返している資料があり、痛ましかった。妥協すべきか貫くべきかで悩んだのか、貫きつつも福音優先(生き残り)を賭けての逡巡だったのか・・・・