研ぎ澄まされる皮膚

世田谷美術館の『エドワード・スタイケン写真展 モダン・エイジの光と影1923−1937』を観に行った。じつはこの写真家の名前すら知らなかったのだが、ポスターを見て、谷川渥『鏡と皮膚』の、あの印象的な表紙写真の人だと分かり、展覧会に行くことにしたのだった。
『鏡と皮膚』の表紙に採用されるだけのことがあって、やっぱり内面ではなく表面、厳密に精緻なる表面への感覚のみを研ぎ澄ました写真群だった。だんだんどれも同じに見えてくるのは、スタイケンが人間の人格ではなく「役」へと典型化された表面を美しく切りとることに成功しているからだろう。
いちばん印象に残ったアメリア・イアハートの写真が、図録では省略されていた。スタイケンではなく被写体モデルたちの著作権の関係だろうか、ふつう図録には出展作品すべてが収録されるだろうに、一部しか掲載されていなかったため、いつもは買う図録も購入せず。どれも見事な写真だったが、ちょっと疲れた。美術館中庭のカフェでコーヒーを啜って帰る。寒かったが誰もおらず、広い空間と人工河川のせせらぎを暫し愉しんだ。